六君子湯(りっくんしとう)

成分(生薬)
人参4、白朮4、茯苓4、半夏4、陳皮1、大棗2、甘草1、乾姜0.5
目標・適応症
虚弱な体質のものに用いられることが多い。普段から胃腸が弱く、みぞおちに不快感があり、食欲不振、疲れやすい、手足が冷えるなどの症状を目標とする。診察所見としては胃内停水があり、脈腹ともに軟弱である。一般的には慢性胃炎、胃下垂症、胃潰瘍、消化不良、食欲不振、虚弱者の胃腸型感冒、虚弱者や老人の養生薬として使われる。また最近アメリカ消化器病学会に胃の蠕動を促して、逆流性食道炎に効果があるとの報告がなされた。

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)

成分(生薬)
麻黄4、杏仁4、甘草2、石膏10
目標・適応症
喘咳があって、自然に汗がでる、口が渇くなどの症状を目標とする。あまり高熱のある状態には用いないことが多い。診察所見として脈は浮数である。一般的には気管支炎、気管支喘息、心臓性喘息、小児喘息、肺炎などに用いられる。

麻黄細辛附子湯(まおうさいしんぶしとう)

成分(生薬)
麻黄5、細辛3、附子0.5-1
目標・適応症
老人や虚弱体質なもの、疲れで体が弱っているものにつかうことが多い。悪寒、微熱、全身倦怠感、無気力、身体疼重、手足の冷え、咳嗽などの症状を目標とする。診察所見としては脈は沈んでいて力のないことが多い。一般的には感冒、気管支炎、肺炎、気管支喘息などに用いられる。
治験例
(一)感冒
55歳男性。平素より虚弱な体質であった。悪寒がして熱が39度となった。元気なく、悪寒がして耐えられない。非常に疲れていた。脈は沈んで細く弱い。麻黄細辛附子湯を2日分与えた。服用すると全身が温まり、こころよく汗がでて、すっかり治ったという。このように効く風邪薬をのんだのは初めてであると感謝された。(矢数道明氏治験)

麻黄湯(まおうとう)

成分(生薬)
麻黄5、杏仁5、桂枝4、甘草1.5
目標・適応症
体質がしっかりしていて充実感のあるものに一般的に用いられる。熱性病の初期に用いられることが多く、頭痛、身疼痛、腰痛、関節痛、寒気、汗が自然に出ないという症状が目標となり、脈は浮緊、舌や腹部に特徴的な所見はない。感冒や気管支炎など熱性病の初期以外に、小児の鼻つまり、気管支喘息、関節リウマチの初期などにもつかわれる。
治験例
(一)鼻づまり
10歳の少年。ふだんから鼻炎がある。風邪をひくと鼻がつまって、口で呼吸しなければならない。頭痛、ときどき寒気、脈は浮で力がある。咳はでない。麻黄湯を与えると10数分で鼻のつまりがとれ、風邪も3日の内服でよくなった。麻黄湯を風邪に用いるときは、脈が浮いていて力があり、さむけと熱があって、頭痛がしたり、ふしぶしが痛んだり、鼻がつまったりするのを目標とする。(大塚敬節氏、漢方診療30年より)

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

成分(生薬)
半夏5、黄芩2.5、乾姜2.5、人参2.5、甘草2.5、大棗2.5、黄連1
目標・適応症
心窩部(みぞおち)のあたりが痛む、つかえ感がある、吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、口臭、お腹がゴロゴロ鳴る、ゲップが出るなどの症状を目標とし、診察所見としてはみぞおちに圧痛があり、胃内停水、舌に白苔がついていることが多い。一般的には急性、慢性胃炎、胃酸過多症、胃下垂症、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、便秘、下痢、神経衰弱などに用いられることが多い。
治験例
(一)神経衰弱症
この患者は神経症で、みぞおちにつかえ感があり、不安感が強く、体格はがっしりしているが、気持ちは至って小さく、疲れやすく、足冷え、不眠症で種々の治療をおこなわれていたが効果がなかった。腹部は比較的軟弱で、みぞおちに軽度の圧痛があり、胃内停水が認められる。半夏瀉心湯を与えると、みぞおちのつかえ感がとれ、不安感もなくなり、食欲が出て、よく眠れるようになった。(矢数道明氏、漢方百話より)

(二)胃拡張症(胃炎)
44歳男性。生来健康で酒を好み、暴飲暴食を続けていた。胃を悪くしたので禁酒したが、今度は大の甘党になってしまった。昨年暮れよりみぞおちに不快感が出現し、胸やけを訴え、夕方になると嘔吐するようになった。臭いゲップがしきりに出る。体格は中等度、舌には白苔がついており、みぞおちには圧痛があり石のように固い。時々腹鳴がある。半夏瀉心湯加茯苓を与えると、服薬10日にして症状の大半が消失した。本証は生姜瀉心湯の証であろうが、半夏瀉心湯加茯苓がよく奏功した。(矢数道明氏、漢方と漢薬3巻1号より)

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

成分(生薬)
半夏6.0-8.0、茯苓5.0、厚朴3.0、蘇葉2.0、生姜1.5
目標・適応症
本方は気剤といって、気分のふさがっているのを開くというものである。体質が虚弱で性格が神経質なものに使われることが多い。胃症状やヒステリー、ノイローゼ、鬱などの神経症状、のどの痞え感、浮腫などの症状に効果を発揮する。本方に適したものは、脈は多くは沈弱、腹壁は一般に軟弱、心下部に拍水音を証明することが多い。

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

成分(生薬)
麦門冬10、半夏5、粳米5、大棗3、人参2
目標・適応症
痙攣性の咳嗽に用いられることが多い。目標の症状としては咳嗽、のぼせ、顔面紅潮、咽喉の乾燥感、刺激感など。麦門冬湯の咳の特徴としては激しく痙攣性、連発性、痰は少なくて切れにくく、声がかれることが多い。
治験例
(一)喘息と肺結核
56才女性。肺結核に喘息が合併し発作が起きると終夜あえぎもがき、激しい呼吸困難が続いた。この発作が半年続いたため見るかげもなくやせ衰えてしまった。麦門冬湯を内服させると10日後には半年間続いた苦悶から全く開放された。食欲も出てすっかり元気になった。(矢数道明氏、漢方の臨床11巻7号より)

人参湯(にんじんとう)

成分(生薬)
人参3、白朮3、甘草3、乾姜3
目標・適応症
虚弱な体質のものにつかわれることが多く、体を温める作用がある。疲れやすい、胃痛、下痢、嘔吐、唾液が多く出る、手足が冷えやすい、薄い尿が多く出るなどの症状が目標となる。診察所見として、腹部は軟弱無力で振水音を認めるものと、腹壁が薄くて固くベニヤ板のように触れるものとがある。舌は苔がなく湿っていることが多い。一般的には急性慢性胃腸炎、胃弱、胃液分泌過多症、胃潰瘍などに用いられることが多い。
治験例
(一)右上腹部痛
50歳女性。太って色白、筋肉は軟弱、主訴は半年前から右の脇下が痛み、何かつかえている気持ちである。1週間前からみぞおちが痛むようになり、放屁することが多くなった。腹部は一体に膨満し、振水音が著明である。冷え性であり、小便が近い。人参湯によって、みぞおちは爽快となり、体は軽くなって気分が良くなった。

(二)唾液分泌過多症
30歳女性。9ヶ月前から絶えず生唾が上がって、食事した後吐くことがある。また咽喉や胸がつかえたり、みぞおちがチクチク痛んだり、就寝中に胸が痛んだりするという。中肉中背でそれほど体力の低下は見えない。脈は沈んで小さく、みぞおちに圧痛がある。この患者には、口に唾液がたまる、夜小便におきるの2点を目当てに人参湯を投与したが、1ヶ月足らずでこれらの症状はすっかり良くなった。(山田光胤氏、薬局14巻1号より)

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

成分(生薬)
当帰3、川芎3、芍薬6、茯苓4、白朮4、沢瀉4
目標・適応症
一般に虚弱な体質のものに、男女老若を問わず用いられる。貧血と腹痛に使われることが多く、他、全身倦怠感、足の冷え、頭重、めまい、耳鳴り、肩こり、腰痛、動悸、多尿、浮腫などの症状を伴うことが多い。診察所見としては脈は沈んで弱く、腹は全体に軟らかく、心窩部に振水音を認める。応用範囲の広い薬であり、婦人科的疾患や神経症、眩暈、腎炎、胃痛や痔核、冷え性など多くの病状に使われる。

当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう)

成分(生薬)
当帰3.0、桂皮3.0、芍薬3.0、木通3.0、大棗5.0、細辛2.0、甘草2.0
目標・適応症
体質が虚弱で冷え性のものに使われることが多い。目標は手足が冷え、脈細小である。腹証は底に力がなく腹直筋が拘急しているものが多い。手足が冷えると腹にガスがたまり、腹が張って痛むというものがある。
治験例
(一)凍瘡
33歳女性。数年前から毎年手足の冷え、凍瘡で苦しみ、今年は最も症状が強く、両足首と甲が腫れあがっていた。今は歩くこともできない。皮膚科、外科の手当てはもちろん受けたが、いっこうに効かないという。当帰四逆湯を与えたが、内服で凍瘡がなおりますかと不審がっていたが、とにかく服用させた。ところがその後喜色満面で来訪し、服用後、一日ごとに手足が温かくなり、皮膚にうるおいが出て、両足の腫れが一週間後にはほとんど消退してしまったという。このような霊薬があるのを知らずに毎年冬中苦しんでいたのが残念であったと、大いに感謝された。翌年の9月末から当帰四逆湯と十全大補湯を交互に服用させたところ、凍瘡を発せずにすんだ。(矢数道明氏、漢方百話)