半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

成分(生薬)
半夏6.0-8.0、茯苓5.0、厚朴3.0、蘇葉2.0、生姜1.5
目標・適応症
本方は気剤といって、気分のふさがっているのを開くというものである。体質が虚弱で性格が神経質なものに使われることが多い。胃症状やヒステリー、ノイローゼ、鬱などの神経症状、のどの痞え感、浮腫などの症状に効果を発揮する。本方に適したものは、脈は多くは沈弱、腹壁は一般に軟弱、心下部に拍水音を証明することが多い。

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

成分(生薬)
麦門冬10、半夏5、粳米5、大棗3、人参2
目標・適応症
痙攣性の咳嗽に用いられることが多い。目標の症状としては咳嗽、のぼせ、顔面紅潮、咽喉の乾燥感、刺激感など。麦門冬湯の咳の特徴としては激しく痙攣性、連発性、痰は少なくて切れにくく、声がかれることが多い。
治験例
(一)喘息と肺結核
56才女性。肺結核に喘息が合併し発作が起きると終夜あえぎもがき、激しい呼吸困難が続いた。この発作が半年続いたため見るかげもなくやせ衰えてしまった。麦門冬湯を内服させると10日後には半年間続いた苦悶から全く開放された。食欲も出てすっかり元気になった。(矢数道明氏、漢方の臨床11巻7号より)

人参湯(にんじんとう)

成分(生薬)
人参3、白朮3、甘草3、乾姜3
目標・適応症
虚弱な体質のものにつかわれることが多く、体を温める作用がある。疲れやすい、胃痛、下痢、嘔吐、唾液が多く出る、手足が冷えやすい、薄い尿が多く出るなどの症状が目標となる。診察所見として、腹部は軟弱無力で振水音を認めるものと、腹壁が薄くて固くベニヤ板のように触れるものとがある。舌は苔がなく湿っていることが多い。一般的には急性慢性胃腸炎、胃弱、胃液分泌過多症、胃潰瘍などに用いられることが多い。
治験例
(一)右上腹部痛
50歳女性。太って色白、筋肉は軟弱、主訴は半年前から右の脇下が痛み、何かつかえている気持ちである。1週間前からみぞおちが痛むようになり、放屁することが多くなった。腹部は一体に膨満し、振水音が著明である。冷え性であり、小便が近い。人参湯によって、みぞおちは爽快となり、体は軽くなって気分が良くなった。

(二)唾液分泌過多症
30歳女性。9ヶ月前から絶えず生唾が上がって、食事した後吐くことがある。また咽喉や胸がつかえたり、みぞおちがチクチク痛んだり、就寝中に胸が痛んだりするという。中肉中背でそれほど体力の低下は見えない。脈は沈んで小さく、みぞおちに圧痛がある。この患者には、口に唾液がたまる、夜小便におきるの2点を目当てに人参湯を投与したが、1ヶ月足らずでこれらの症状はすっかり良くなった。(山田光胤氏、薬局14巻1号より)

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

成分(生薬)
当帰3、川芎3、芍薬6、茯苓4、白朮4、沢瀉4
目標・適応症
一般に虚弱な体質のものに、男女老若を問わず用いられる。貧血と腹痛に使われることが多く、他、全身倦怠感、足の冷え、頭重、めまい、耳鳴り、肩こり、腰痛、動悸、多尿、浮腫などの症状を伴うことが多い。診察所見としては脈は沈んで弱く、腹は全体に軟らかく、心窩部に振水音を認める。応用範囲の広い薬であり、婦人科的疾患や神経症、眩暈、腎炎、胃痛や痔核、冷え性など多くの病状に使われる。

当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう)

成分(生薬)
当帰3.0、桂皮3.0、芍薬3.0、木通3.0、大棗5.0、細辛2.0、甘草2.0
目標・適応症
体質が虚弱で冷え性のものに使われることが多い。目標は手足が冷え、脈細小である。腹証は底に力がなく腹直筋が拘急しているものが多い。手足が冷えると腹にガスがたまり、腹が張って痛むというものがある。
治験例
(一)凍瘡
33歳女性。数年前から毎年手足の冷え、凍瘡で苦しみ、今年は最も症状が強く、両足首と甲が腫れあがっていた。今は歩くこともできない。皮膚科、外科の手当てはもちろん受けたが、いっこうに効かないという。当帰四逆湯を与えたが、内服で凍瘡がなおりますかと不審がっていたが、とにかく服用させた。ところがその後喜色満面で来訪し、服用後、一日ごとに手足が温かくなり、皮膚にうるおいが出て、両足の腫れが一週間後にはほとんど消退してしまったという。このような霊薬があるのを知らずに毎年冬中苦しんでいたのが残念であったと、大いに感謝された。翌年の9月末から当帰四逆湯と十全大補湯を交互に服用させたところ、凍瘡を発せずにすんだ。(矢数道明氏、漢方百話)

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

成分(生薬)
半夏6、麻黄3、芍薬3、甘草3、桂枝3、細辛3、乾姜1.5、五味子1.5
目標・適応症
あまり虚弱な体質のものには向かない薬。喘咳があり、泡沫水様の痰が良く出る、唾がわいてくる、水のような鼻水がでる、胃の調子が悪く、背中が冷える、尿の出が悪い、むくみなどの症状を目標とする。診察上は、脈は浮弱、胃部振水音を認めることもある。感冒、気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症、肺気腫、浮腫、胃酸過多症、アレルギ―性鼻炎、関節炎で水のたまったものなどに用いられることが多い。
治験例
(一)気管支喘息
61歳男性。毎年10月から3月頃まで間断なく喘息の発作に苦しむという。筋肉のしまりのよい痩せ型で、ふだんよく水ばなを流していた。それが発作のときはひどくなり、また皮膚に粟粒大の痒みのある発疹が出たり消えたりする。この患者は4年間小青竜湯をのみ続け、発作は新築の旅館に泊まったときと、旅先で大酒をのんだときと2回しかでなかった。(大塚敬節氏、漢方診療30年より)

(二)クシャミの頻発するアレルギ―性鼻炎
50歳男性。この人は20年来クシャミが発作的に起こり、とめどなく頻発する。発作時は鼻がむずむずして、連続してクシャミが始まり、涙が流れ、鼻水が流れ、よだれがでて、顔中水をかぶったようになるという。急に冷えた空気を吸ったり、夜に寝巻に着替えたりすると起こる。冬が多いが夏でも起こる。毎晩ベッドに入るときは、ちり紙を枕元に置くが、眠りにつくまでにくずかごがいつもいっぱいになるという。小青竜湯を与えると、3日目から好転し、鼻紙がわずかですむようになり、2ヶ月の服薬ですっかりよくなり、以後数年になるが再発しない。(矢数道明氏、漢方百話より)

小建中湯(しょうけんちゅうとう)

成分(生薬)
桂枝4、芍薬6、大棗4、生姜4、甘草2、膠飴20
目標・適応症
普段から身体虚弱で疲れやすい人や、普段は頑丈であるが無理をかさねて、ひどく疲労しているような人に適している。腹痛、全身の疲労状態、精力の虚乏といった症状が目標となり、診察所見としては腹部に圧痛があり、腹直筋が拘攣しているもの、または腹部が軟弱であることもある。主に、虚弱児の体質改善、感冒の経過中に腹痛を訴えるもの、胃炎、腸炎、疲労状態などにつかわれる。
治験例
(一)虚弱体質
4歳の女児。生来風邪をすぐひく。扁桃腺が腫れて40度近い熱がでる。1年中これを繰り返していた。1夜に3~4回も失敗することがあり、汗がでる。昨年は風邪のあと咳が続き、小児喘息と言われた。時々お腹が痛いと訴える。またどこかへ旅行したり、親戚の家へ泊まったりすると必ず高い熱が出る。風邪をひくのが恐ろしくて外出をきらい、元気なく一人で家の中にこもりがちであった。痩せ型で顔色は青白く、腹は薄く腹筋が緊張している。小建中湯を与えたところ、服薬後風邪をひかなくなり、ひいてもすぐに治り、高熱は出なくなり、夜尿も次第に少なくなり、2ヵ月後には自分から外へ出て友人と遊びまわるようになった。腹痛も治り、性格も一変して陽気となり、顔色もよくなって太ってきた。(矢数道明氏、漢方の臨床11巻2号より)

十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)

成分(生薬)
人参3、黄耆3、白朮3、茯苓3、当帰3、芍薬3、地黄3、川芎3、桂枝3、甘草1
目標・適応症
虚弱な体質のものに使われることが多い。全身の衰弱が甚だしく、貧血し、皮膚はかわき、胃腸の力も衰え、熱のないものを目標とする。診察所見としては外見は痩せ、脈腹ともに軟弱である。一般的には産後、手術後の衰弱、熱性病後の衰弱など、全身の衰弱しているものに用いる。

四物湯(しもつとう)

成分(生薬)
当帰4、芍薬4、川芎4、地黄4
目標・適応症
男性にも用いられるが主に婦人に用いられる。婦人の諸疾患を治す聖薬とされている。貧血の傾向にあり、月経の不調があり、自律神経の失調などがあるものを目標とする。診察所見は皮膚は乾燥し、脈は沈んで弱く、腹は軟弱で臍の上に動悸が触れることが多い。一般的には月経異常、更年期障害、不妊症、産前産後の諸病、子宮出血、皮膚病などに処方される。
治験例
(一)血の道症
34歳女性。4年前2度目のお産後からこの病状が起こった。息苦しく、動悸を感じ、肩が凝り、腰は痛み、手足は冷え、全身がたまらなくだるい。だるくなるとはしを持つのもいやになり、憂鬱でなんともしようがない。時々足の裏に火がついたのかと思われるようにほてってくる。この4年間家事は一切他人任せである。診察すると、脈は沈んで微弱であり、腹は軟弱で、臍の付近に動悸と圧痛がある。また月経は極めて少ないという。四物湯を与えると、2ヵ月後には元気になり、家事も自分でできるようになった。(矢数道明著、漢方百話より)

桂枝湯(けいしとう)

成分(生薬)
桂枝4、芍薬4、大棗4、生姜4、甘草2
目標・適応症
普段からやや虚弱な体質のものに一般的に用いられる。寒気、体がほてる、頭痛、自然に汗がでてくる、体が痛いなどの症状を目標とし、診察所見としては脈は浮弱、舌や腹部には特記すべき所見はない。主として、感冒、神経痛、リウマチ、頭痛、寒冷による腹痛、神経衰弱、虚弱体質などに処方される。
治験例
(一)頭痛
21歳の男性、感冒にかかり葛根湯をのんだが汗がじめじめと出てとまらず、頭痛、さむけがして、脈は浮弱であった。薬を桂枝湯に変えて、一回分服用すると、汗はやみ、のぼせがなくなり、頭痛も拭うように治った。(矢数道明氏、臨床応用漢方処方解説より)